別山・チブリ尾根往復(ブナの森)


 昨日の記事の続き。

 ブナの森のなかで過ごす時間が大好きだ。北アルプスの山岳景観の素晴らしさ、を先日改めて認識したのだけど、それとは全く別の世界。鋭角的な世界が北アルプスであるならば、むしろ木々がつくりだす円弧のような滑らかで、そしてフラクタルのような複雑な形状が細かく空を切り取っていく。そして森の中の空気、が芳香のなかにある。静かで、まったく人気がないのだけど、森自体が孕む不思議な賑やかさをふっと感じる瞬間が楽しい。

 夕暮れ前のブナの森に流れた、薄い幕が張ったような視界、そこに流れていく少し粘度がある大気、追いかけてくる影、そして闇への畏怖の感覚、そんな始原の感情のようなものを呼び起こす深い森のなかにいた時間、に酔ったような気持ちになった。