金澤・富樫のあたり:灯油の匂いが漂う路地を曲がると


 このところ走ることよりも、歩いている時間が断然長くなってきた。通勤路を変えて、富樫から寺地にかけての田園地帯、だったところを歩いている。昔からの集落と新興住宅地が入り乱れ、河岸段丘から続く丘のうえから伏見川沿いの低地、勤務先がある、へ降りていく。金澤の南で、決して伝統的な街並みの場所ではないのだけど、例によって真っ直ぐな道はなく、蛇行したり、湾曲したりして、なかなか真っ直ぐに目的地に着かない。だから面白い。

 ときとして古ぼけた農家があったり、文化住宅があったり、寒くなり灯油の匂いが漂う路地を曲がると、そこが公園だったりして楽しい。そして冬型の気圧配置が強まるこの季節の愉しみを思いだしている。湿気を孕んだ風に吹かれながら歩いていると、何か柔らかい・冷たいもので首筋をなぜられるような感覚がある。顔から首筋まで見えぬ流水で洗われるような清浄な心地。毎年そう思うのだけど、肉体的な記憶なので残滓がさっぱりなくて、そんな風が吹くと想い出すのだ。

 やはり空には雲が多く、それが北からの風で流れ、空の様子が時々刻々変わっていく。南の空が重苦しい曇天であっても、西の空が晴天だったりする。幾重にも折り重なる雲は、概ねモノ・トーンなのだけど、濃淡の陰翳が強く、とても立体感がある。だから空の奥行きが底抜けに深いように感じるときがある。

 昨日の通勤路でも、暫し仕事を忘れて空をみていた。ほんとうに、そんな初冬に向かう金澤がとても好きなのだ。

テレビアンテナがつくる影って、面白いと思う。