金澤・夕霧峠、長良坂:走りながら気にとまった記憶

 今日、本当は白山に登りたかった。今年は週末の天候不順であったこと、夏から初秋にかけて海外への出張やら私事で金澤を離れることが多かった。だから今年はまだ白山山系に登っていないのだ。

 この日曜こそは、と思っていた。だけど、寒冷前線が北方を通過するために寒気が入り込み、標高2000m以上では昼間でも氷点下の予想。低温であること防寒の準備をすればいいだけなのだけど、前線の通過で風雪になると嫌だった。少し前線が南に移ろうだけで大荒れになるかも知れない、と思った。慎重といおうか、臆病なのだ。まあ、それでいいと思っているのだけど。独りで行動するときには、嫌な想定をいくらしても、しすぎることはない。

 そんな訳で、朝から石川と富山の県境にある医王山へのランニングに切り換えた。残雪期に遊んで以来。頂上が双峰の山で白兀山(896m)と奥医王山(939m)からなる。その鞍部が夕霧峠。この夕霧峠を金澤から富山・福光に抜ける林道が通っている。自宅のある寺町台地からこの夕霧峠まで走り、あと奥医王山に登ることにした。ボクが走るのはレースの練習ではなくて、ツーリング気分のランニングが楽しいから。だから気楽な遊びなのだ。景色が良ければ休むしね。

 朝方はまだ天気は良く、朝日が上がるまえ、医王山の山塊が小さなシルエットになっているのを見て出発した。山側環状道路で金沢大学の下まで行き、そこからはひたすら登る。林道の見上峠まで13km。その手前から急坂で、サイクリスト達もあえぎあえぎ。見上峠を過ぎると更に斜度はあがるので、走っているより早歩きのよう。それでも9分/kmくらいなので、30分/km(標準)・20分/km(ボク)の登高ペースよりは随分と早い。山頂直下の夕霧峠まで2時間21分/18.3km。休憩を入れて3時間くらい。早くないけど、900mくらい上がっているから仕方がない。案外近いものだ。

 この夕霧峠からは富山・福光の田園地帯が一望で、金沢側より遙かに人里に近い。この光景がとても好きなのだ。里山のうえに上がったような感じで。天気が良ければ北アルプス立山剱岳が見えるのだけど、冷たい曇天の日。峠に佇むお地蔵様の前掛けや帽子の赤がとても眼に染みいるように鮮やかだった。モノクロームの天気のなかで、紅のように浮かび上がっていた、走りながら気にとまった記憶。

 自宅から奥医王山までの往復は36km。帰途は足の故障、昨秋に痛めた右足の関節が怖くて、抑えて走った。それにしても、眼の前に日本海が広がる光景を走る。そして金澤の街並みを目指し、沈んでいくような走りは楽しかった。また行こう。

 最後に浅野川河畔から小立野を上り、亀坂から犀川方面に下り、再び長良坂で寺町台地に上がった。長良坂ではいつものようにお地蔵様に手を合わせた。ふっと気になって振り返ると、鮮やかな彼岸花がみえた。私事でいろいろあったので、すっと気持ちがもっていかれた。吹上とも呼ばれるその坂で、一陣の風が抜けていった。そんなことがあるから、この坂が好きなのだけど。